中華民国は国際連盟原加盟国なのか?

お題を頂きましたので

中華民国は、国際連盟の原加盟国なのか?」とのお題を頂きました。

そもそも近現代史は関心の埒外なのですが、わりと面白そうなので調べてみることにします。

ブログ更新の材料にもなりそうですし。

まずは高校世界史的事実確認を

最初に、高校世界史的な事実を確認しておきましょう。

  1. 中華民国は内戦状態を停止しパリ講和会議に代表団を派遣した。
  2. 中華民国は山東ドイツ利権問題でヴェルサイユ条約調印拒否国である。
  3. 中華民国は国際連盟の加盟国である。
  4. ヴェルサイユ条約の第一編は「国際連盟規約」である。

これくらいでしょうか。

4はウィルソンが調印し、上院が批准拒否したアメリカが国際連盟非加盟であることを軽く触れる程度でしょう。

 

高校世界史の範囲外では

中華民国代表団は、パリ講和会議に反発した五・四運動の高まりを受け、1919年6月28日にヴェルサイユ宮殿鏡の間で行われた条約調印を拒否しました。

山東省のドイツ利権を日本が引き継いだこと、アメリカ大統領ウィルソンが掲げた「十四カ条の平和原則」がアジアに於いて実現されなかったことに対する反発です。

ヴェルサイユ条約に調印しなければ、国際連盟加盟は成りません。

 

鏡の間

鏡の間

 

ところが、中華民国は国際連盟第一回総会からの加盟国です。

 

それではどこで加盟したのか、と言えばサン=ジェルマン条約に調印して加盟しているのです。

これは高校世界史では習いませんね。

現在考古博物館となっているサン=ジェルマン・アン・レー城で1919年9月10日に結ばれたサン=ジェルマン条約は、連合国とオーストリアの間で結ばれた講和条約です。

第一編はヴェルサイユ条約と全く同じ国際連盟規約なので、この条約に調印することで国際連盟加盟が可能でした。

さて、調べましょう

某私立大学の入試問題で「中華民国は、国際連盟原加盟国ではない」と言い切っているようなので、根拠があるはずです。

こういう場合には、何らかの規定があると思っていいでしょう。

そうなれば、原典を当たるしかありません。

 

国立公文書館デジタルアーカイブにはヴェルサイユ条約の日本語本文があります。

同盟及聯合国ト独逸国トノ平和条約及附属議定書・御署名原本・…です。

 

原本をあげて確認していきましょう。

この条約には附属書があり、「原連盟国」が規定されています。

「支那国」も含まれていますので「原連盟国」かと思いきや、亜米利加合衆国も含まれます。

これでは原連盟国かどうかの根拠にはなり得ません。

 

 

根拠を探して、読み進めて行くと第一編第一条に規定がありました。

 

 

「本規約付属書列記の署名国及び留保無くして本規約に加盟する・・・中略・・・を以て、国際連盟の原連盟国とす。」

この条ですね、これに従えば調印を拒否した中華民国は無論署名もしていないですから「原連盟国ではない」と言えるでしょう。

 

まあ、そもそも調印拒否などという事態を想定はしていなかったのでしょうが・・・

 

ところで、サン=ジェルマン条約は第一編がヴェルサイユ条約と同じですから「サン=ジェルマン条約をもって原連盟国」とも言えそうです。

しかし、この場合第一条の続き「右加盟は本規約実施後、二ヶ月以内に宣言書を連合事務局に寄託して之を為すべし」の内容に引っかかります。

 

ヴェルサイユ条約の署名は1919年6月28日、サン=ジェルマン条約は同年9月10日です。

同内容の条約が二回締結された場合、どちらが優先なのかは知りませんが、二ヶ月以内の寄託はヴェルサイユ条約署名からと考えるのが妥当でしょう。

なぜなら国際連盟の成立は1920年1月20日、つまりヴェルサイユ条約発効日だからです。

 

これもヴェルサイユ条約を拒否してサン=ジェルマン条約に調印するなど、明らかに想定外だったように思えます・・・

 

国立国会図書館デジタルコレクション、青木節一著『国際連盟年鑑』(1929)があるとネットに書いていたので確認してみましょう。

 

 

青木節一氏は外交官、国際連盟に勤めていた方で、ここは信用していいでしょう。

デジタルコレクションには1927年版・28年版もありますが、そこでは「支那国」はそれぞれ「平和条約に署名せる原連盟国」・「連盟国」とのみあります。

この記述は、ヴェルサイユ条約などの附属書そのままのように思えます。

 

1929年版には「支那 一九二〇・七・十六〔加盟〕」と記載があります。

これは、サン=ジェルマン条約の発効日ですね。

 

他の本の調べてみましたが、1920年6月29日で異なります。

ただ、1920年1月20日の国際連盟設立時には加盟していなかったとの認識は共通です。

 

こうなると「原加盟国」の意味解釈の問題ですね。

結論?

  1. 中華民国は大戦当事者として、パリ講和会議の諸条約に記載される「原連盟国」である
  2. ヴェルサイユ条約署名拒否・二ヶ月以内に宣言書を連合事務局寄託していないことから、条文上では「原連盟国」と言えない可能性が高い
  3. 中華民国は発足最初から国際連盟に加盟していた、という意味での「原加盟国」ではない

 

こんなもんでしょうか。

あちらこちらで「原加盟国である」「原加盟国でない」と記述が異なるのは、「原連盟国」と「原加盟国」を混同しているからですね。

英語だとほぼ違いが取れなくなる〔The original Members of the League of Nations〕ので、より混乱することになります・・・

この出題は・・・

これ私は直接見てないのですが、実は世界史の出題ではないそうです。

ですが、少々出題に難があると思います・・・

調べ物としては、新しい知見も増え楽しかったです。

常にお題お待ちしています。

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