ギュスターヴ=モロー
大学時代に京都でギュスターヴ=モロー展で「洗礼者ヨハネの首を持つサロメ」を見て以来、心惹かれる画家の一人だったギュスターヴ=モロー。19世紀半ばに活躍した作家で象徴派絵画の先駆的存在と言われています。
モローの遺志により、彼の住居がギュスターヴ=モロー美術館として公開されているそうなので訪ねてみました。
勢い余って開館時間の15分前に到着。その日は曇りで夏だというのに寒く、待ち時間がとても長く感じられました。もちろん扉を叩き「中で待たせてくれないか?」と交渉はしてみたのですが…
青空から差す日の光が余程嬉しかったのか、こんな写真を撮ってました…
美術館周辺は閑静な住宅街で、犬を連れて散歩をする人を見かけました。
開館時間に居た客は、私の他には日本人女性3人。とても静かに作品を見ることが出来ましたが、その反面「カメラのシャッター音で鑑賞の邪魔をするといけないな」と気になり写真が余り撮れていません。歴史屋としては痛し痒しです。
客が僅かだったせいか、4階家具内の習作や水彩画を見落とすと言う失敗をしてしまっています。後で書きますが、あれが開くとは… 旅を振り返ると得るものも多いですが、失敗に気付くことも多く嫌になりますね…
75009 Paris, フランス
3階
地上4階、3・4階が水彩画や大作を飾るアトリエ、2階がモローと家族が住んだアパルトマンになっています。フランスでの階の表示は日本と違うので、美術館のホームページに従います。
まずは大作の並ぶ3階から。
3階で絵画以外で目に付くのは、この優美で繊細な螺旋階段。実際に4階に上がるための階段です。
3階壁面には大作が並びます。
モローの作品はギリシア・ローマ・聖書に題材を取ったものが多いのが特徴です。
写真②右「求婚者達」はトロイア戦争後、海神ポセイドンの怒りに触れ、長きにわたり地中海をさまよったオデュッセウス。彼が故郷イタケーに帰った後、貞節な妻ペネロペーに求婚していた輩を射殺するシーンを描いたもの。世界史でも習う『オデュッセイア』から題材が取られた作品です。作品奥には小さく、弓を持つオデュッセウスがアテネの象徴であるフクロウと共に描かれ、絵画前面には射殺された求婚者達が倒れます。
写真④の一番下はギリシア神話のレダと白鳥と化したゼウスを題材にしたもの。
どの作品も幻想的な雰囲気です。中でも私個人的に心に残ったのは「神秘の花」
殉教者達の死屍からは血塗られた百合の花、花の上には手に純潔の象徴である一輪の百合と十字架を持つ、聖母マリアが描かれています。マリアの彫刻を思わせる端正な顔つきと殉教者達の死屍。象徴性の意味など深く考えなくとも、目を奪われる作品でした。
4階
続いて螺旋階段を上り4階へ。
4階の壁面。代表作の「出現」は人が居たためか、それほど感銘を受けなかったのか撮り損ねています。静かに鑑賞できる環境では、流石にシャッターを切る気分も控えめです。⑤にモロー若い頃の自画像が、イーゼルに見えます。
先に書きましたが「開くとは知らずに失敗した」とは②⑤などに写っている箱です。②は周囲に「Close」と書かれた札がかかっていますが、一面だけ開いたようです。中味は水彩画や習作だそうです。⑤のものは把手に金属棒が通されていました。どちらもまさか開けていいものとは思わず…
美術に関しては本当にど素人ですので、細かくは解説できませんが①の聖ゲオルギオスやエウロペーの略奪など時間を忘れて見入りました。
4階のものを数点。人類に火を教えたことにより、ゼウスの怒りを受け、生きながらにして日々肝臓をハゲタカに啄まれるプロメテウス。苦痛に耐えつつもその色を表さず、顔を上げ強い眼差しを見せるプロメテウスに意志の力を感じます。
暗部に見えるグリフォンと光の下の妖精。明暗の対比でより美しさが際立つように思えました。
ヘラにそそのかされ、恋人であるゼウスが神としての姿で降臨することを願ったセメレ。限りある命を持つ人であるセメレは、雷神ゼウスの纏う雷に撃たれ絶命する。愚かしい分を超える願いをもったが故に避け得なかった死、その死から誕生したデュオニソス。ゼウスの玉座の下には人に悲劇をもたらす諸相が展開される。印象的な作品でした。
願わくば
才覚の無い貧乏人には到底叶わぬ夢ですが、こんな美術館に一日をかけるような、そんな旅をしてみたい。振り返ってそう思います。
弟に何気無く「パリのモロー美術館に行ったよ」と言うと「え、図録を買ったの。あそこでしか買えないんだ、見せて」「い、いや、重いから買わなかった…」 あなた、芸術に興味のないソフト屋じゃなかったのか…
親族の意外な多面性を見せてくれた、美術館でもありました。